処分地の公募開始にあたって

(要旨) 原子力発電で発生する最も危険な放射能のゴミ「高レベル放射性廃棄物」を地下に埋め捨てる「地層処分」の実施主体 「原子力発電環境整備機構」 は、処分地の公募を開始することを昨年12月に発表しました。わたしたちは、地層処分の安全性を強く懸念するとともに、処分地を拙速に決める前に、今こそ放射性廃棄物の問題と原子力発電について国民的な議論を深めるべきだと考えます。日本の原子力政策は、破綻しているプルトニウム利用計画をまだ見直していないため、廃棄物の処分にも先行きの不透明な点が多く、この問題を曖昧にしたまま処分地探しだけが先行すべきではないと考えます。


日本は他国にくらべて高レベル放射性廃棄物の処分政策が遅れていましたが、その遅れを取り戻そうと、いま急ピッチで処分政策が進められています。けれども、それほどまでに高レベル放射性廃棄物の処分問題が大変な状況にあることを、多くの国民は知らされていません。そもそも「高レベル」の放射性廃棄物とは何なのか知らない人、すでにどこかに処分していると思っている人も多いことでしょう。

国や電力会社は「国民はこの問題を理解していない」と嘆いていますが、「知っていますか? 電気を使えばゴミがでることを」などといった広告を流し始めたのはつい最近のことです。これまで放射性廃棄物という原発の負の面をできるだけ伝えないようにしてきたのは自らなのですから、そのような状況にあるのは当然のことです。処分の実施主体に Nuclear Waste Management Organization of Japan という英語名(直訳するならば「日本核廃棄物管理機構」)を冠しながら、日本語では「原子力発電環境整備機構」(通称:原環機構)という名称にして、何をする法人なのかわからないようにしたということが政府委員会で公言されているほどです。

その原環機構により昨年12月から開始された公募で処分地が簡単に決まってしまえば、放射性廃棄物の問題を一人一人の国民が自覚し、原子力発電のこと、エネルギーのこと、将来の社会のことを考える絶好の機会を失ってしまうでしょう。それだけでなく、「放射性廃棄物は処分できるから、いくら発生しても大丈夫」とばかりに原子力発電を推し進めることは、エネルギーや資源の消費を加速する恐れが大きく、これからの地球が抱える問題を解決する方向ではありません。

根本的な問題として、わたしたちが核燃料サイクル開発機構の技術報告書などを検討したところでは、いま宣伝されているように「地層処分すれば絶対安全」とは断言できません。この方法で本当に安全が保たれるのか、地下に危険な放射性廃棄物が埋まっていることを将来の世代にどう伝えていくのか、それとも忘れ去ってほしいのか、現在の世代が何をどこまで決め、何をしておくべきなのか、そうした議論を社会全体で共有する必要があります。そのような議論と認識の共有があってはじめて、この廃棄物を処分するなり保管する地域を決めることができるでしょう。

現在のところ、原発の使用済み核燃料はすべて再処理してプルトニウムを取り出すという非常に無理のある政策を前提に、今回公募する処分場には、2020年までに発生予定のガラス固化体4万本を埋設することになっています。現実的な方針転換として再処理をやめ、アメリカやフィンランドなどと同様に使用済み核燃料のまま埋設することになると、廃棄物に含まれている放射性核種の種類も増え、処分場や廃棄物の容器などの設計も変わってきます。ところが、こうした「直接処分」の研究は、使用済み核燃料をすべて再処理するという国策に反するため、日本では行うことが許されていません。このような硬直した政策に信頼を寄せることは大変難しいことです。

一方、このまま再処理を続けていくのなら、使うあてのないプルトニウムを無理矢理プルサーマルで消費せねばなりません。通常のウラン燃料にくらべて、プルサーマルの使用済み核燃料は処分を難しくする放射性核種が多く含まれますが、そのような点にまで現状では注意が払われていませんし、それ以前の問題として、プルサーマルの使用済み核燃料をさらに再処理するのか、それとも再処理せずに直接処分するのかさえ不透明です。このように、実際に何が埋められていくのかさえ確かでない状況にありながら、まず処分地だけは決めようというのは、乱暴で無責任なことです。

高レベル放射性廃棄物の最終処分の国際的な動向として、2002年にアメリカやフィンランドで最終処分地が決まったことが紹介されますが、これらの国と違って、日本はプルトニウム利用政策の先行きが不透明で、何を埋めるのかさえ定かでないのですから、同列に論じることに疑問を禁じえません。わたしたちは、処分地が決まることが原子力政策の既定路線に誤りがないという姿勢を補強し、政策の見直しを先延ばしする口実となることを危惧します。

高レベル放射性廃棄物の問題は非常に深刻であるからこそ、処分地決めを急ぐのではなく、原子力政策の見直しも含めて国民的な議論を先に深めるべきです。この問題をずるずると先延ばしできないのであればなおのこと、このような処分方法しか提案できない原子力発電をどうするかという議論を即座に始めることをわたしたちは求めます。

最後に、この公募に応じることは、ゆくゆくは原子力発電所、中間貯蔵施設、再処理工場の立地地域に対して、高レベル放射性廃棄物の「行き場」として国が約束する地になることを意味します。手続き上は首長の判断だけで公募に応じることが可能ですが、住民のあいだで十分な合意がないままに処分地に決まり、あとから地元で賛否が激しく対立しても、処分政策に組み込まれてしまってからでは、日本中の原子力立地地域との複雑な関係のなかで簡単に退くことができないことは予想に難くありません。各自治体には、以上述べた点を十分に考慮に入れて、慎重に事に当たっていただくことを希望します。

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